> 東京ガス株式会社|Singularity University Japan Summit
SingularityU Japan Summit

山上 伸(常務執行役員 IT本部長 技術本部長)

将来(2030年〜2040年)における、貴社の社会での役割はどのようなものになるとお考えでしょうか。

すごく難しい問題です。弊社は今ほとんどの収入を、天然ガスをベースにした都市ガスと、天然ガスを使って電力を発電するというエネルギーの事業から得ています。現在はシングルコーンの山のような事業構造になっていますが、弊社のトップは、エンジニアリングや産業用ガスなどの周辺ビジネスによって、八ヶ岳のような連峰にしたいと考えています。そこがどこまで実現できるかはこれからの勝負ですが、今の段階では、エネルギーが売り上げの90パーセントを占めています。
エネルギー産業は今転換期にあります。アメリカを見ると明らかですが、ヨーロッパを見るとさらに明らかです。化石燃料から、リニューアブルと呼ばれる再生可能エネルギーにシフトしていっています。二つ理由があって、ひとつは、地球温暖化を回避すべくカーボンフリーにならなければいけないという義務(obligation)、消費者側からくるニーズがあります。もう一つは、マージナルコストがかからなくなるということがあると思います。
水力、原子力などと、それに加えて風力や太陽光といった再生可能エネルギーにシフトしていくことになると考えています。それはおそらくOECD諸国すべて共通の方針で、アメリカも大統領の発言は別として、ハワイは2045年までにカーボンフリーになると言っていますし、カリフォルニアもそれより前にそれを実現しそうな雰囲気があります。
2050年にカーボンフリー(正確には温室効果ガスを80%削減)の時代になると、天然ガスなどを使って電気をつくるという産業が成り立たない。かなり先を見ると都市ガスに変わるビジネスが必要になります。一方で、今日本は、2030年までに日本全体として温室効果ガスを26パーセント削減すると言っています。日本が排出している温室効果ガスは13億トン(二酸化炭素換算)で、その大部分の11.5億トンが化石エネルギー起源の二酸化炭素です。そのうち5億トン弱が石炭で、同じく5億トン弱が石油、さらに2億トン強が天然ガスです。例えば、電力をつくるためには、石炭をやめて、天然ガスにしていく、あるいは効率の悪い天然ガスの発電所を効率の良いものに変えるだけで、数億トンは削減できます。13億トンの26%となると、約3億トンを減らせばいいのですが、それは石油や石炭を天然ガスで代替していくことで減らせます。ですので、2030年までは天然ガスの消費を伸ばすことによって二酸化炭素は減ります。
そこからカーボンフリーへ向かうとなると、今度は天然ガスも使えなくなるので、どこかで変曲点があって、急激に消費量は落ちて行く。2050年には落ちることが分かっていて、2030年までは登っていくことが分かっています。この状況があるので、すごく難しい業界です。

そのような将来が予測されているなかで、今回シンギュラリティ大学にご参加いただくことで、どういったことを期待されていらっしゃいますか。

シンギュラリティ大学の言う「エクスポネンシャル」な変化が実際起こるかは我々も分かりませんが、これまでの日本のユーティリティは、投資に対してリターンがリニアに返ってくるという世界でしたし、資産(asset)を全部自分で所有し、その資産に対して投資したリターンで自分が利益を得るというビジネスモデルになっています。
シェアリング(sharing)でもなければ、ピアトゥピア(peer to peer)でもない。今後重要となるのが、電化(electrification)と、デジタル化(digitalization)、分散化(decentralization)です。
電化については意識していますが、デジタル化、分散化はまだ意識していません。一例を挙げますと、九州地方ではすでに太陽光発電が多く導入されており、需要が落ち込む中間期は太陽光パネルからの出力が抑制されています。せっかくカーボンフリーのエネルギーが出ても、電力会社が持っている原子力発電や石炭火力発電の出力を落とせないので、仕方なくマージナルコストがかからない太陽光発電の出力を止めています。これは、デジタル化が進んできて、需要が把握できて、その需要をシフトできればかなり効率的な使い方ができます。
こういったデジタル化が進んでいない、あるいは情報が双方向になっていないことによるロスが日本では多いと思います。例えば、Uberはそこを効率的にやっています。自動運転が出てくると、今使われていない車が車庫で眠っていることが少なくなり、さらに稼働効率が上がります。 このようなことはエネルギーの業界では起きないと思っていましたが、デジタル化、分散化が起こっていくと、電化の世界は加速的には進んで行くと思っています。その変化について、弊社の若い社員にも見ておいて欲しいという思いがあり、今回サミットに参加することにしました。彼らには、キャピタリズムとは違う世界を見て欲しいという思いもあり、期待するところです。
封建主義では、土地をたくさん持っている領主がいて、うまく農民を束ね、不動産が資産になっていた。今、農民の立場は社員に変わっていますが、そういった世界は今後変わっていくと思っています。その流れに一番早く気が付けるのは、シンギュラリティ大学が紹介する、技術、コミュニケーション能力、人に対する感性「EQ」など、サービス思考の概念です。日本のユーティリティの世界では、トップダウンでエネルギーを供給しており、サービス思考ではありません。そのように変わっていくのは大事なので、社員にはそのマインドを持って欲しいと考えています。

今回のサミットでは、「Shaping Japan’s Future」というテーマを掲げています。他のパートナー企業の皆さんと一緒にこれを実現することが可能か、どうお考えですか。

はじめてのサミットなので、参加をしてみないとわからないというのが本音です。ただ、NTTデータ様、コニカミノルタ様など、このような動きに馴染みのメンバーが今回も参加してくださり、そういった企業が日本をリードしてくださるので期待しています。
ユーティリティの業界では、これまでは地方の企業はその地域を独占していて、その地域の経営者の集まりでも、その企業の人がトップに名を連ねています。一方で、東京ガスは東京のなかの一企業に過ぎません。今回のサミットの他の参加者と情報を交換し、交流を図ることによって何か違うものが生まれるのではないかと期待しています。
いち早くカーボンフリーを実現させられるのは、日本の中では東京ガスではないかと思っています。SDGsに向けて、一つの分野から貢献できるかと思っています。

他にサミットに期待していることがありますか。

エネルギーは、イノベーションから一番遠いところにいました。アメリカのスタートアップを見ていても、クリーンテックは一番少ない。エネルギーの新技術は実現に時間が掛かります。太陽光も素材から入っていくので、実際にビジネスになるまでに10年ほどインキュベーションに時間が掛かる。ただ、その後にエクスポネンシャルに成長する可能性もあるので、そこを期待しています。そのような世界が来るのは間違いないと思っているので、そこをどうやってキャッチアップしていくかが大事だと考えています。
残念ながら、シンギュラリティ大学の書籍にもある「スタッフオンデマンド」は現在弊社でまったく実現されておらず、全部がプロパー社員で、アルゴリズムや、クラウドファンディング、クラウドソーシングもできていない現状があります。ですが、ひとつが変われば、大きく変われる可能性があるとも思っています。多様化も進んでおらず、現状は男性社会、ほぼ日本人のみで組織が構成されています。多様化(diversification)が進んでいないと発想が「金太郎飴」のようになってしまうのが問題だと思っています。
一方、弊社には1,100万件、3,000万人のカスタマーがいます。ですので、エネルギーとはまったく別のビジネスも今後考えていきたいと思っています。また、アメリカは規制があまり厳しくないので、イノベーションが起きやすい。日本は規制が多く、Uber、Airbnbも本格参入できない。そこも大きな問題、ロスだと思っています。社会の効率化を妨げています。世界的なリニューアブルシフトによって、太陽光発電のコストは下がってきています。ドイツでは、1キロワット時のパワーをつくるのに9ユーロセント、日本円にすると13円くらいです。日本では高効率の火力発電機では7~8円で発電ができるのでまだ勝てませんが、家庭の屋根につけると、送電線の料金を払わなくて良いので、13円で手に入ります。
しかし、せっかく高効率火力で作った7円の電気も、送電するとそこに8円が上乗せされ、15円になります。グリッドパリティを考えると、日本で街中につけられる。つけられない理由は、太陽光発電をしている時間帯に電力需要がないからです。なので、捨てるか、電力系統に逆潮流することになり、ほとんどただ取りされてしまいます。
カリフォルニアでは、出した電気と買った電気を相殺してくれます。これができれば太陽光パネルは急激に普及します。ただ、カリフォルニアはこれをやりすぎて、日中に電力の需要がなく、夕方に急激に増え、火力発電所が追随できなくなったため、需要をシフトする方に補助を回すようになっている。 日本の電力会社は、それが起こるとなりたたないので、これが起こらない。アメリカは、このような動きと政治が一緒になって動いているのがいいと思います。ですので、イノベーションと、規制緩和(deregulation)が一緒に起こることが大切かと思います。

山上 伸/Shin Yamagami

常務執行役員 IT本部長 技術本部長